研究内容
分子や原子が積層してできる固体には、超伝導、電子スピンが交互に逆向きに並ぶ反強磁性、電荷が規則的に並ぶ電荷秩序、強誘電性など、多様な電子物性が現れます。電子物性は構成原子、圧力、温度などのわずかな変化で大きく変化します。例えば分子性導体は分子の積層方向に由来する、異方的な電気伝導性をもちます。分子軌道の重なりは一般に小さいので、クーロン反発などの影響を受けやすいです。さらに分子そのものが柔らかく、分子配置が変化しやすいという性質ももっています。このような特徴をうまく使うと、光照射によって超高速かつ巨視的に電子状態を変えることができて、光誘起相転移と呼ばれています。
熱平衡における電子物性と構造物性を、相互作用する電子、分子振動、格子振動によって記述する模型が、対象とする物質や現象に応じて存在します。しかしたとえ平衡状態の電子物性を記述できたとしても、光照射によって駆動され、平衡状態から大きくかけ離れた状態の時間変化を記述するには不十分で、目立たない自由度や相互作用が本質的な働きをすることがあります。このような電子状態を、相互作用の強いあるいは弱い極限からの計算や、各種の近似計算、系を小さくするかわりにその中では厳密に扱う計算などを使って、理論的に研究しています。時間変化についても、環境に左右されながら確率的に変化する長時間のふるまいから、いまの状態がわかれば直後の変化がわかるような短時間のふるまいまで、幅広く扱っています。
光誘起相転移には、電子が反発してお互いに身動きがとれずに凍結しているところを融解することで現れる絶縁体から金属への転移、電荷密度や電荷分極の整列のしかたを変える転移、磁場を加えても磁化の発生しない非磁性から磁化の発生する常磁性への転移、電場を加えなくても電気分極のそろった強誘電からそれがばらばらになった常誘電への転移などがあります。これらについて理論研究を進める中で、分子の間を動き回る電子の速さと分子の中の原子の揺れの速さが同程度になって、量子干渉を起こすことなどを世界に先駆けて示しました。こうした蓄積を基にすると、どのような波長のレーザーをあてれば電子、分子変位、格子変位を選択的に動かし、巨視的な状態変化をいかに効率的に得られるかなどがわかるはずです。最終的な状態変化は似ていても、それにつながる経路や時間をレーザーの波長によって変えることも考えています。
相互作用する電子格子系がみせる非平衡現象のひとつに、非線形伝導もあります。電流が流れている状態は、定常状態ですが非平衡なので、それほどわかっているわけではありません。分子性導体に電流を流すと、電荷分布や分子配置が変化して、温度や圧力の変化では現れない状態になるなど、特異な現象が報告されています。これらについても、定常状態を直接扱う理論的な方法などを使って取り組んでいます。
Last modified: Mon Jul 21 18:14:35 JST 2014